東京地方裁判所 平成11年(ワ)8468号 判決 2000年11月21日
原告
佐藤安司
被告
仁井留実子
ほか四名
主文
一 被告仁井幸雄訴訟承継人仁井留実子は、原告に対し、一九万一四八七円及びこれに対する平成一〇年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告仁井幸雄訴訟承継人仁井正直、同仁井誠、同仁井みなみは、原告に対し、それぞれ六万三八二九円及びこれに対する平成一〇年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告富士総合食品株式会社は、原告に対し、その余の被告らと連帯して三八万二九七五円及びこれに対する平成一〇年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金一五〇万九三七〇円及びこれに対する平成一〇年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、仁井幸雄(以下「幸雄」という。)の運転する貨物自動車(以下「仁井車」という。)が、駐車場に駐車中の原告所有の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)に衝突し、原告車が損傷した事故につき、原告が被告会社に対し、幸雄の使用者として使用者責任を主張し、また、その余の被告らに対しては、幸雄の相続人として幸雄の原告に対する不法行為に基づく損害賠償債務を相続したことに基づき、原告に生じた損害の賠償を求めた事案である。
一 前提となる事実(争いがない。)
1 事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 発生日時 平成一〇年八月一四日正午ころ
(二) 事故現場 千葉県成田市駒井野中ノ橋一五一―一 Z一パーキング内
(三) 加害車両 幸雄運転の貨物自動車
(四) 被害車両 原告所有の普通乗用車
(五) 事故態様 加害車両が、駐車場に駐車中の被害車両に衝突した。
2 本件事故により損傷を受けた原告車を原状回復させるための修理費として、一〇二万二〇一七円を要した。
3 既払金
被告らは、原告に対し、右2記載の修理費として、一〇二万二〇一七円を支払った。
4 相続
加害車を運転していた幸雄は、平成一二年一月一九日死亡し、被告仁井幸雄承継人仁井留実子(以下「被告留実子」という。)は幸雄の妻であり、幸雄の債務につき二分の一を相続し、同仁井正直(以下「被告正直」という。)は幸雄の長男、同仁井誠(以下「被告誠」という。)は幸雄の二男、同仁井みなみ(以下「被告みなみ」という。)は幸雄の長女であり、それぞれ幸雄の債務につき六分の一ずつを相続した。
二 争点
争点は、本件事故により原告に生じた修理費以外の損害額であり、双方の主張は以下のとおりである。
1 評価損
(一) 原告の主張
本件事故による事故歴により、原告車は、事故がなかったとした場合の原告車の事故時の査定価格三四八万二〇〇〇円から、修理後の査定価格二四九万五〇〇〇円を差し引いた差額九八万七〇〇〇円の評価損を被った。
(二) 被告らの主張
本件車両の修理箇所によれば、いずれも骨格部分以外の車両の周辺部分の損傷に止まっており、かつ損傷部分についても部品の多くが交換されていることからすれば、機能等における原状回復はなされたといえる。
また、原告の提出する証拠によっては、取引上の評価損が生じているか否か明らかではないから、取引上の評価損も認められない。
2 代車料
(一) 原告の主張
本件交通事故により、原告は、代車を使用せざるを得ないような状況に陥り、現実に代車を使用しているから、現実に代車料の支払がなくても代車料相当額三四万六〇〇〇円の損害が発生した。
(二) 被告らの主張
本件において、原告には、代車の必要性も代車料の支払の事実も認められないから、代車料損害が認められるものではない。
3 交通費
(一) 原告の主張
原告は、事故前に事故現場に原告車を駐車して成田空港から外国に出かけた。事故後、成田空港から原告の自宅まで、タクシー料金二万六三七〇円を要した。
(二) 被告らの主張
電車等による通常の交通機関によっては帰宅が不可能といったタクシー使用の必要性が不明であり、タクシー料金額の信憑性に疑念がある。
4 弁護士費用
(一) 原告の主張
本件訴訟追行の費用及び報酬として金一五万円が相当である。
(二) 被告らの主張
争う。
第三争点に対する判断
一 評価損について
1 証拠(甲一、二、六の各一、二、乙三)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告車は、車名BMW、総排気量二四九三CCで、平成九年二月に初度登録され、本件事故時まで、約一年六か月で一万〇五三六キロメートル走行していた。
(二) 本件事故により、原告車にはドアパネルやフロントフェンダーの交換を中心とする修理がなされた。
(三) メーカーによる事故がなかったと仮定した場合の事故時の原告車の査定価格は三四八万二〇〇〇円であり、修理後の査定価格は二四九万五〇〇〇円とされた。
(四) 原告は、平成一一年三月二七日、原告車を下取りに出し、新車を購入したが、その際の原告車の下取り価格は二四〇万六〇〇〇円であった。
2 原告は、買い換えを前提として、事故がなかったと仮定した場合の事故時の車両価格と、修理後の車両価格との差額を評価損と主張する。
中古車市場において事故があったことのみを理由に一般的に減価されることは経験則上明らかであるから、事故による評価損は、事故による損傷の程度、初度登録から経過した年数等の具体的事実を検討した上で認められる場合がある。
この点、右1で認定した事実及び乙九によれば、原告車両につき、フレーム等の車両骨格部分につき損傷があったものとは認められないから、被害者の損害拡大防止義務の観点からして、事故後直ちに車両を買い換えることを被告らに要求できるものとは解されない。
しかし、直ちに車両の買い換えが認められないとしても、我が国の慣行からして、車検時期には一般に車両の買い換えが検討されることが多いから、将来における買い換えの可能性を前提に評価損を決定することができる。
本件においては、右1で認定した事実を前提にすると、修理費の三〇パーセントに相当する三〇万六六〇五円の評価損を認めるのが相当である。
二 代車料について
代車料は、一般に、代車の必要性があり、かつ、現実にこれを支出した場合に認められるものである。
この点、甲五によれば、原告は、代車を平成一〇年九月から営業取引及び自家用に使用していることが認められるが、原告が、代車を借りた株式会社サカイ美装に代車料を支払ったことは弁論の全趣旨によれば認められないから、代車料相当額の損害が原告にあったとは認められない。
以上により、代車料の支払いを求める原告の請求は理由がない。
三 交通費について
甲四によれば、原告が、成田空港付近の駐車場から自宅までのタクシー代として二万六三七〇円を支出したことが認められる。
この点、被告らは、タクシー利用の必要性等について争うが、原告は、空港まで自家用車で行き、当然これにより帰路につく利便性を考えて、旅行中の駐車料金等を支出していたものと考えられるからタクシー利用の必要性は認められる。
また、原告主張の金額についても、成田空港から原告の自宅がある東京都世田谷区までのタクシー料金として相当性が認められるから、右金額の信憑性を争う被告らの主張は理由がない。
以上により、交通費として、原告主張の二万六三七〇円の損害が認められる。
四 小計
以上、認定した損害額は、合計一三五万四九九二円である。そして、前記第二の一3で認定した既払金一〇二万二〇一七円を控除すると、損害額は三三万二九七五円となる。
五 弁護士費用について
審理の結果、認容額などの事情を総合すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、五万円を相当と認める。
第四結論
以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害金として、被告留実子に対し、一九万一四八七円、被告正直、同誠、同みなみに対し、それぞれ六万三八二九円、被告富士総合食品株式会社に対し、三八万二九七五円及びこれらに対する平成一〇年八月一四日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 影浦直人)